• トップへ

クリストファー・リー様と一緒にご飯を食べる妄想短編小説です(食べてない……

 真っ暗な森を歩いています。強い風が吹きつづけ、木の枝がときどき身体に当たります。一本道を進んでいくと森がひらけて、大きなお屋敷がぼんやり見えました。窓からチラチラと光がゆれています。誰か住んでいるのかな。門をくぐり庭へ入ると、思っていたよりも大きなお屋敷が建っていました。壁にはツタが絡まり、屋根は空に届くほど高く、小さな窓がところどころにあります。扉はずいぶんと重そうです。コウモリの形をしたドアノッカーを二回、鳴らしました。音がしない、壊れているのかな。そのとき、扉が内側へ開きました。
 クモの巣が張った大きなシャンデリアが天井から下がり、立てられたロウソクはほとんど消えています。わたしの影は不自然なくらいに濃く長く伸びていました。上の窓から光が見えた気がする。奥の階段はじゅうたんが敷かれて、足音も吸い込まれてゆくようです。影がずっとついてくる。当たり前のことなのに、心臓がどきどきするのを感じます。手すりを握ると、薄くつもっていた埃が舞いました。
 階段は登っても登ってもどこにも着かなくて、やっと通れるくらいの幅になっていました。手すりは消え、左右の壁がせまってきています。戻って別の階段を探そう。ところが、登ってきたはずの階段は、なくなっていました。暗闇がわたしの足をすくいます。落ちてしまう、と思ったとき、誰かがわたしの身体を受け止めました。頬にかかった髪をそっと払う手は氷のように冷たく、わたしは気を失いました。

 どれくらいの時間が経ったのでしょう。わたしは、ふかふかの長椅子に横たわっていました。首筋にすこし違和感があります。触ってみると、ちょっとだけ濡れているようです。ふらつきながら立ちあがり、周りを見渡します。少し離れたところに光が見え、人影が浮かび上がってきました。
 そこには、テーブルと椅子が置かれていて、誰かがチェスをしています。ひとりは、黒いスーツにツヤのあるスカーフをした、少し怖そうな、おひげのおじいさん。ほおづえをついて考えこんでいるみたいです。もうひとりは、濃いグレーのスーツを着た、すごく痩せているおじいさん。チェス盤と、怖そうなおじいさんの顔を交互に見ています。考えこんでいたおじいさんが、何か話しています。痩せたおじいさんは、微笑みながら答えているようです。目の前にいるのに、ふたりともわたしにはまったく気づかないのです。

 後ろに人の気配を感じました。振り返ると、見上げるほどに大きなおじいさんが立っていました。なにも言わずにわたしを見つめています。きっちりと整えられた白髪、襟の立った足首までもある長いマントに蝶ネクタイをしています。骨ばった白い手は杖に添えられていました。おじいさんは片方のまゆげをぴくりと動かして、ゆっくり腕を上げます。長い爪で示された先に、燭台の置かれたテーブルと、椅子が現れました。
 わたしは、椅子に座らなければいけない気がしました。座ってみると、おじいさんは、さっきよりもずっとずっと大きく見えます。おじいさんは少し目を伏せ、マントの中から、ワイングラスとラベルのない瓶を取り出しました。鈍い赤色のワインを注ぎながらわたしに話しかけてきます。でも、その声は聞きとれません。グラスを持つわたしの手が真っ白になっていることに気づきます。口をつけると、生温かく鉄のような味がぴりっとして……これは、ワインじゃない。これは……。

 おじいさんはグラスの中の何かを飲み干し、マントをひるがえしました。その姿は闇に吸い込まれていきます。立ち上がったわたしの手からグラスが滑り落ち、床で砕けたそのとき、テーブルも椅子も消えていました。
チェスをしていたおじいさんたちが、笑い合っているようすだけ見えます。助けて、といくら叫んでも、声が出ません。ふたりはとつぜん笑うのをやめ、同時にゆっくりとこちらを向きました。その顔に表情はなく、ただ、わたしを見ています。ふたりもわたしも動いていないのに、距離だけがどんどん縮まっていきます。
 おもわず逃げようとして転びそうになったわたしの身体を、誰かがそっと抱き上げました。あふれてくる涙でぼんやり歪んで見える誰かの顔。それはさっきの、大きなおじいさんでした。こぼれ落ちる涙を、冷たい手がぬぐいます。
 耳元で、おだやかな低い声がささやきました。

「……そろそろ、夢から醒める時間だね……」

JUGEMテーマ:映画

ブログの内容を気に入って頂けましたら、RSSリーダーの登録よろしくお願いします。

この記事のトラックバックURL

※記事の内容に関係のないトラックバックは削除する場合があります。
※トラックバックの反映には時間がかかる場合があります。
※リンクのないトラックバックは反映されません。

トラックバック

映画感想*FRAGILE
記事検索

現在91件の記事があります。

最近の記事
カテゴリ
月別アーカイブ
プロフィール
ナイトウミノワ

ナイトウミノワ

映画と人形が好き。一番好きなおじいちゃんはショーン・コネリー。Twitter→ @minowa

おすすめ映画
リンク
無料ブログ作成サービス JUGEM

このページのトップへ▲